感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第27回 2009/08/09   


  原 句  ばつたとび小さな手にはとどかない

 届きそうで届かない高さを飛んでゆくばった。見守るのは祖母です。
 この句は口語でつくられています。口語での韻文も可能ですが、この句の場合はやや舌足らずの散文に見えます。散文ならばもう少しなめらかな調べになるはずなのですが、「ばつたがとび」の「が」という助詞を省いているためにややぎくしゃくして感じられるのでしょう。
 ばったといえば、跳ねたり飛んだりするものですから、「とび」は省けます。
 秋の季語になっているばったを「はたはた」とか「きちきち」などともいいますから、これらの四音の傍題に置き換えましょう。

  添削例1  ははたはたの小さな手にはとどかない

 ここで、全体を文語の表現にしてみます。

  添削例2  はたはたのをさなき手にはとどかざる


 

  原 句  きちきちの跳ねゐし河原沈下橋

 沈下橋は川が増水したときにこわれないように、水が通りやすく作ってある橋です。
 その橋のあたりの河原にばったが跳んでいるという情景ですが、中七が回想的な表現になっているために過去の情景として鑑賞されます。今はもう跳んでいないという句意でしょうか。
 作者にたずねましたところ、今の情景としてつくったとのこと。それなら、

  添削例1  きちきちの跳ねをる河原沈下橋

 一瞬前のことならば、

  添削例2  きちきちの跳ねたる河原沈下橋

となります。
 けれど、どうも沈下橋と河原が重複します。たとえば、こんな表現ができます。もう少しばったの動作を観察して、自分なりの描写を。

  添削例3  きちきちの大きく跳んで沈下橋


 水平線

(c)kyouko ishida
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