感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第38回 2009/11/10   


  原 句  席ひとつあけてをりたるおでん酒

 おでんは一年中見かける食べ物ですが、おでんに欠かせない大根が本来冬の野菜であることもあって、やはり冬にふさわしい食べ物と言えるでしょう。ほかに寄せ鍋や湯豆腐なども体の温まる食べ物として冬の季語になっています。
 この句の「おでん酒」はおでんを食べながら酒を飲むことで、いかにも冬の夜らしい庶民的な情景を想像させます。居酒屋さんか屋台のおでんは、たっぷりと湯気をあげていることでしょう。席を空けておくのは、あとから来る誰かのためで、おでんをゆっくり食べながら、その人をみなで待っているのです。「ひとつ」と言ったことで、数人のグループが見えてきます。たぶん真ん中当たりの席を空けてあるのでしょう。そんなことまで想像できて楽しい句です。
 このままでいいのですが、少し気になるのは「あけてをりたる」の「をり」です。
 「をり」は動詞・助動詞の連用形について動作や状況の継続を表す語で、間に助詞「て」がつくこともあります。この句の場合がそうです。口語で言えば「あけている」です。一句を読んだとき、ここの部分が報告的に感じられたのは、この句が作者の動作を述べているからではないかと思います。
 似たような語「あり」を使って次のようにすると臨場感が増します。なぜなら、情景の描写としてそこに一つあいている席の存在そのものを強く想像させる表現になるからです。

  添削例  席ひとつ空けてありたるおでん酒




 水平線

(c)kyouko ishida
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