感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第40回 2009/12/08   


  原 句  児のやうに両手で綿虫受けにけり

 綿虫は、初冬のころ見かける小さな虫です。
 体長二、三ミリの羽虫ですが、お尻の方が真っ白な綿のようなのでこう呼び、雪が舞っているのかと見まがうほどなので「雪虫」とも呼びます。
 関東あたりでは一、二匹がふわふわと浮かんでいるのをよく見ますが、地域によっては大群でとぶこともあるそうです。
 アブラムシの仲間なので、害虫でもありますが、私たちにとっては冬の到来を知らせる妖精のような虫です。
 作者ははじめて綿虫を見て嬉しかったのです。思わず手に受けようと、両手を差し出しました。感動の感じられる一句です。
 ただ、上五の「児のやうに」で、言いたいことを前面に出してしまったようです。いわば読者よりも作者の方が主役になっているのです。もちろん一句の主語は作者でいいのですが、「主役」は読者として追体験をしてもらうほうが感動が伝わるのではないでしょうか。
 上五の比喩は省き、動作のみを言ってみます。出会いの喜びは充分に感じられます。

  添削例  綿虫を両てのひらに受けにけり

  

  原 句  テニスボール両手で返す小春かな

 初冬、まるで春のような暖かい日が続くことがあります。これを「小春」「小春日和」などといい、冬の季語です。
 この句はテニスをしている情景を詠んでいますが、あの小さいボールを両手で投げるのは不自然ですから、おそらくラケットを両手で握りしめて返球した様子を言っているものと考えました。力強い球が飛んできたのでしょう。
 それならば、ただ正確に言い換えてみます。上五の字余りは表現としてこのままにします。

  添削例  テニスラケット両手で握る小春かな



 水平線

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