感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第41回 2009/12/15   


  原 句  鳥たちの教へてくれし枇杷の花

 冬に咲く花の代表は山茶花でしょうか。園芸種も多く、生垣などによく植えられています。花の少ない時期を明るく彩ってくれます。
 枇杷の花も冬に咲きます。けれど、クリーム色の花は小さく目立たない上、高いところに咲くので気づく人は少ないようです。
 その枇杷の花に、鳥たちがやってきて蜜を吸ったのでしょうか。鳥が来たことによって、作者は初めて枇杷の花に気づきました。二階の窓からの光景だったかもしれません。
 この句には、作者の自然に対する心持ちが感じられて好感が持てます。身の回りの季節の変化は、私たちの日常を豊かにしてくれます。作者にはそれに気づく生き生きとした心があるのです。
 この句は、このままでもよいと思いますが、季重なりになってもこの鳥の具体的な名前を入れるともっと景は生きるように思えました。「鳥たち」と言った場合、ある程度の時間の経過が思われますが、具体性を持たせると一羽の鳥が飛んできて枇杷の枝にとまった「たった今」の映像が浮かびます。

  添削例  鵯の教へてくれし枇杷の花

  

  原 句  晴れて見し水際に映えし(はぜ)紅葉

 櫨の紅葉は真紅。美しいものです。水に映った姿もさぞ美しいことでしょう。
 「晴れて見し」は、快復した夫とともに紅葉を眺めた嬉しさを詠んだものだそうです。
 この句は動詞が二つ、どちらも過去形です。もう少し臨場感を得たいと思います。

  添削例1  晴れて見し水際に映ゆる櫨紅葉

 また、実際にこの句の詠まれたのは十二月でしたから、こんな詠み方もできます。冬の紅葉の冴え冴えとした色はこの情景にふさわしいかもしれません。

  添削例2  晴れて見し水際に映ゆる冬紅葉


 水平線

(c)kyouko ishida

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