感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第42回 2010/01/19   


  原 句  いさぎよくふたつに折れし冬の菊

 菊は秋の代表的な季語ですが、冬にも咲き続けます。枯れかかったものを「枯菊」、霜の中に咲いているものを「霜菊」、寒中ならば「寒の菊」などとさまざまに詠まれます。
 この句は単に「冬の菊」として寒い中にもまだ鮮やかな色を見せている菊を想起させています。途中からぽっきりと折れた一本を見て「いさぎよい」と感じたのは作者の心情の投影なのかもしれません。
 「ふたつに折れし」は寸前の過去の出来事ですが、作者は折れたままの姿で咲いている菊を描いたのではないでしょうか。そこがやや曖昧かと思われました。

  添削例  いさぎよく折れてありけり冬の菊

 「てあり」は、動詞を受けた助詞「て」に、「ある」という動詞を重ねた形。動作の完了の継続を示します。「ふたつに」といわなくても真ん中からぽっきりと折れた菊が想像されます。
  

  原 句  大根をまるごと一本食べ尽くし

 大根は冬の根菜の代表格ですが、家族の人数が少ないと、せっかくの新鮮な大根も食べきらないうちに瑞々しさを失ってしまいます。
 そんな大きな大根をしっかり食べきったという安堵。この句はそんな気持ちがとてもよく伝わってきて共感を呼ぶのではないでしょうか。
「一本」はこの場合大きな意味を持っています。
 ただ、「〜を〜する」というやや散文的な表現と、中七の字余りとが、一句を説明的に感じさせています。

  添削例  大根の一本を食べ尽くしけり




 水平線

(c)kyouko ishida
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