感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第54回 2010/12/14   


  原 句  大木に群雀来し時雨かな
 
 時雨は、初冬のころぱらぱらと降っては止む雨のことで、本来は山陰地方などの山沿いの地域でよく見られる気象を言うそうですが、いかにも初冬の寂しい風情があるので、そのほかの地域でも冬のにわか雨があれば時雨として詠まれます。朝時雨、夕時雨、夜時雨、片時雨などの傍題があります。
 この句は、一幅の絵のように、ふいの雨に雀たちが大木の葉陰に逃げ込んで来た情景を描いています。夕暮れ時など多くの雀がかしましく群れている景をよく見ますが、この句の雀たちも寂しい風景の中で賑やかに声をあげていることでしょう。
 少し気になったのは「群雀(むらすずめ)」が来たとしている点です。雀の一群が、わっと一木に群れたというのはわかりますが、雀の群が来たといえば自然な表現でも、群雀が来たという表現にするとなにか間違っているような気がして何度も読み返してしまいました。『広辞苑』で確かめると群雀は「群をなしている雀」ですが、ひとつの「もの」というよりは、現象をあらわした詩的な言葉なのではないでしょうか。
 微妙なニュアンスの違いなのですが、

  添削例  大木に雀群れきし時雨かな

としてみました。雀という生きものの動きは感じられるのではないかと考えます。





 水平線

(c)kyouko ishida
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