感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第55回 2011/1/11   


  原 句  若水を夫に汲まさむ星あかり
 
 「若水」は元日に汲む水のことで、新年初めて汲む神聖な水として歳神に供えます。この水を汲むのは年男の役目ですが、一般家庭で「若水」として最初に井戸から汲み上げるのはその家の家長でしょうか。地域によって風習は異なるようですが、いずれにしても今では縁の薄いことばで、もっぱら新年の季語として親しまれているだけでしょう。
 この句は初句会で私自身が作ったものですが、新年早々句座のブーイングを浴びてしまいました。「汲まさむ(汲まそうの意味)」とは家長である夫に対して失礼ではないか、ということでした。まったくそのとおりで、それは家人に対する無礼というよりは、やはり若水という神聖な水に対する非礼でしょうか。
 正月といっても今は通常の日とまったく変わらぬ生活を送っている人も多く、また水道の水ではなんの情緒も感じられませんが、こんなふうに俳句を作ることを通して昔の生活をしのぶのもいいものです。蛇口をひねればふんだんに使うことのできる水は実際には貴重な資源であり、ひとたび災害に見舞われればそのありがたさはいやというほど身にしみるに違いありません。
 私が新年に初めて使った水は簡易水道として、山から湧き出た沢の水を引いたものですから、あけがたまだ星の光が美しいとき、何気なくつかった水の冷たさに思いがけない淑気を感じたのでした。そのときふと思ったのが、ああ、昔は新年に限って男の人がこの水を汲んで神に供えたのだな、かりそめにでもここは男手を借りてみようか……ということでした。
 男女同権とはいえ、そのままでは読者の抵抗感はぬぐえませんね。

  添削例  若水を夫汲み呉れよ星あかり

 これくらいなら許されるでしょうか。




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(c)kyouko ishida
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