『子供の遊び歳時記』

                 榎本好宏


2013/05/10
子供

  第三十二回
 じゃん拳とずいずいずっころばし

 子供達は、鬼ごっこや縄跳びの順番を決める時、じゃん拳か、ずいずいずっころばしを使った。年齢の上下があっても、この方法が最も公平だったように思う。正確には石拳(せっけん)と呼ぶこのじゃん拳、改めて書くまでもないが、片手の五指を握って「石」(グー)、五指を開いて「紙」(パー)、人差し指と中指を伸ばして「はさみ」(チョキ)――は全国共通だった。
 順番決めにはもう一つ、「ずいずいずっころばし」もあったが、こちらは、もっぱら女の子達が使った。仲間の一人が「ずいずいずっころばし 胡麻味噌ずい」と唄いながら、周りが突き出した握り拳の穴を突いて回り、唄い終わった指の人が鬼になった。
 この鬼決めだが、歴史的には「ずいずいずっころばし」の方が歴史的には早く、既に江戸時からあったが、じゃん拳の方は、幕末から明治にかけてはやり出したというから、そう古くはない。
 後ろに隠していた手を、「じゃんけんぽん」の合い図で前に出し、勝負がつかない時は、何度でも「(あい)こでしょ」といって続く。私の疎開した群馬では、最初の「じゃんけんぽん」のところを、「チッカッポ」と言った。「相こでしょ」のあとに、「サノメでしょ」とも言った記憶がある。「サノメ」が「三度目」の略だろうと、子供心に思っていたからであろう。こうした違いが全国的に方言としてあることも、大人になってから知った。
 そのものずばりの「じゃんけんぽん」なる(わらべ)(うた)もあった。別名「鬼決め唄」とも呼んだ。こんな歌詞だったと記憶している。
  じゃんけん ぽんよ
  相挙(あいこ)でしょ
   相挙じゃ 駄目よ もう一度
  じゃんけん ぽん
 ついでながら、同じ童唄の「ずいずいずっころばし」の歌詞も書いてみる。少し記憶があいまいなので、こちらは『日本童謡事典』(東京堂出版)から引いた。その歌詞とはこうである。一緒に口ずさんで欲しい。
  ずいずいずっころばし 胡麻(ごま)味噌(みそ)ずい
  茶壺に追われて とっぴんしゃん
  抜けたァら、どんどこしょ
  俵の(ねずみ)が米食って チュウ
  チュウ チュウ チュウ
  おっ()さんが呼んでも
  おっ()さんが呼んでも
  行きっこなァし(よ)
  井戸の(まわ)りでお茶碗()いたのだァれ
と続く。恐らく、この時代に少年、少女期を送った人なら、誰でも口ずさめる文言である。ただし、大人になり不意に思い出しても、相変わらず詞の文意が判然としない。
 ありがたいことに、先の文献には、一部分その解釈が入っている。この唄そのものが、宇治でとれた新茶を将軍に献上する、御茶壷道中をうたったもの「らしい」と推測している。
 曲名になった「ずいずいずっころばし」の「ずい」は、里芋の(ずい)だとする。今日でも食(ぜん)にのぼる芋茎(ずいき)のことだろう。それを胡麻酸の味噌()えで食べると酸っぱいから、「胡麻味噌酸い」なのだとする。残念ながら、この後の(なぞ)解きはない。
 ここまで書いてきて思い出したのだが、足でやるじゃん拳も子供のころあった。足でやるのに「拳」と言っていいのかどうかだが、まず足を閉じて立つと石である。その足を左右に開くと紙、前後に開くとはさみ――となる遊びで、手と違って慣れていないから失敗も多く、それが却って面白い。
 先に群馬でじゃん拳を「チッカッポ」と言うと書いたが、これも地方によっていろいろある。長野県の松本市では、女の子に限ってだが、「チッチッチ」という。「グンペンパ」との掛け声は、名古屋市周辺の男の子のそれである。埼玉県の入間郡では「チーリーサイ」と、香川県では「シャンシャンホイ」と、高知県では「イージャンホイ」と、それぞれ声を掛ける。どの言い方も、「じゃんけんぽん」と調子が同じであることがうれしい。




(c)yoshihiro enomoto



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