らくだ日記       佐怒賀正美
【作品36】
2009/03/25 (第470回)

 ここからは、第3のグループの作品群、つまり「俳句」1997年12月号に発表した「邯鄲の夢」51句に入る。八束の最後の作品集と思ってもよい。全句を引いてみたい気もするが、スペースを取りすぎるので、佳品や問題のある作のみ引きながら鑑賞していきたい。
 この句の風景は非常にシンプルだ。秋になって渡ってくる雁の鳴き声を高空に聴きながら、作者はその空の色に惹かれている。どのような色かは描かれていない。ただ、雁の声を聞き、空の色を見ていると、誰かが母を思っている、そんな色に感じられるというのだ。もちろん、誰かがという誰の内には八束自身も入っている。母情を恋う心のいろが、雁の飛来する空の色と等価になる。「誰ぞ母思ふ(そのような)空の色」と表現されたのは初めてではないか。
 この句では、「空のいろ」がどのような色かは絵画的な色彩としては具体的に描かれていないが、心理的な色合いとして感じるように表現されている。従来の伝統的な詠み方だけでは解けないが、心をもって理解しようとすれば何となく感じ取れる。考えてみれば俳句は絵画と異なると言いながら、いつの間にかホトトギスの「写生」ひいては具象写生に染まりすぎてきてしまった。そろそろそれらが見えなくしてしまった領域を俳句に取り戻してもよいのではないか。
     
 


















     
   
   
   
   
     
『春風琴』平成9年作 
(C)2007 Masami Sanuka
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