らくだ日記       佐怒賀正美
【作品35】
2009/03/24 (第469回)

 蕪村の「蘇鉄図」の絵の世界に自らの心境を重ねた句。この年、茨城県の水戸で蕪村展が開かれた。私も足を運んだが、展覧室のいちばん奥にソテツが力強く天へ両腕を広げている図に圧倒された。蕪村好きな八束のことだ。私などよりはるかに早く時期に長い時間この絵に向き合っていたことであろう。
 もちろん、この蘇鉄図は、50歳を越えた蕪村が讃岐の妙法寺で滞在の御礼に描いたもの。最初は襖絵として揮毫したもので、それを後の住職が四曲の屏風絵に改装した。この図の款記は「階前闘奇 酔春星写」とある。「春星」の号にさらに「酔」と冠したのは、酔いに乗じて筆を取ったためであろうとされているらしい。
 八束は、蘇鉄図を眺めながら、その虚空の澄みわたっているさまに惹かれた。澄みわたる空の奥には、落款にある酔春星の蕪村がそのまま春の星にでもなっていてもおかしくはあるまい、と感じ入った。月光を湛えた虚空の澄みに「春星」とは季節が交錯するようだが、それらが渾然と溶け合うように感じられたのであろう。そういう意味では「澄み」に季節感を置きながらも、心象として広がる世界は超季の作としてもよいだろう。
 八束にとって、蕪村の図の実物に触れた最後の展覧会となった。
     
 












     
   
   
   
   
     
『春風琴』平成9年作 
(C)2007 Masami Sanuka
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