「17音の小宇宙―田口麦彦の写真川柳」 第3回 2009/07/10 |
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1974年に中国秦の始皇帝の兵馬俑が発見されて世界中の人を驚かせた。「俑」とは、お墓に副葬する人形のことであるが、それが一体とか二体とかではなく等身大のものが8,000体も埋葬されていたのである。 「兵馬俑」の名のとおり、戦車が100余台、馬の600体もいっしょである。来世へと旅立った始皇帝を守る軍隊の隊列であった。 あの万里の長城を築いた強大な力を持つ皇帝だから、それもありなのだろう。 さらに驚くことは、その兵士たちの顔に一つとして同じものがないという。 一体ずつ丹念にリアルに作られたのだろうが、さまざまな民族の混成軍団であったことを想像させる。 先年行われた北京五輪では、中国が多民族国家であることを象徴する華やかな踊りが披露された。チベット問題をかかえる中国もまた、多民族との共存を模索しているのだろう。一党独裁の政治と世界経済とのはざまで。 そういった中で、いまもなお直立不動の姿勢で立ち続けている兵馬俑の兵士の表情にユーモアさえ感じる。 「そんなに騒がないで」「あんまり急がないで」と言いかけているように見える。 21世紀は、まだ始まったばかりである。 牛の歩で足りる新世紀は長い 定本広文 新世紀はじめの2001年、第16回国民文化祭ぐんまで文部大臣賞となった作品である。この句の選考に選者としてかかわれたことを光栄に思っている。 川柳というわずか十七音字の詩型で、大きな時代と立ち向かって行くには限界もある。 しかし、日常の身辺の小さな出来事から大きな世界を仰ぎ見ることもある。「時代への感受性」という感性を毎日磨き続けていれば、いつか川柳の神様にめぐり逢えるだろう。 |
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(c)Mugihiko Taguchi |
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