「17音の小宇宙―田口麦彦の写真川柳」  第2回 2009/07/03


 

     生きてますピサの斜塔の形して


生きてますピサの斜塔の形して
Photo by Kuniko Sakamoto

 ピサの斜塔は、北イタリア、トスカナ州の古都ピサにある大聖堂付属の鐘塔である。
 1173年起工し、1350年に完成した。
 建て始めてから177年もかかって造り上げるのは、現代からみれば気の長い話である。だが、高さ約55m、直径17mの八層の円塔と聞けば、当時の建築技術からすれば驚くべき高さであったのだろう。建設中に地盤が緩み沈下したが、そのまま工事が続けられ完成させたという。中世、東方貿易で繁栄した都市であるから威信にかけてということがあったのかも知れない。
 傾斜は垂直線から約5mで、最近も倒壊防止のため補修工事が行われている。
 傾いていることで有名な塔だけに、一目見たい、できたら上ってみたいという観光客も多い。また、この塔はガリレオの落体の実験でも知られている。
 私はまだ見たことがないが、ツアーで行った人の話では、いろいろ制約があるらしい。
 下から見るだけならフィレンツェに泊って日帰りツアーで可能だが、塔に上るとなると、まず予約が必要。倒壊を防ぐための人数制限があり40名様限り。カメラ以外の手荷物はロッカー預けとなる。勇気ある人たちは左巻きの階段を上って上へ上へと行くが、階段の外に出ても柵はあまり高くない。高所恐怖症の人にはかなり厳しいだろうと思う。
 行ったこともない私が、それでも憧れるのは、そんな傾きを持ちながら、なお屹立しているという健気さである。いまは、多くの人にとって生き難い時代である。ネットカフェにこもって、明日の日銭を稼ぐ職を求める若者も多いし、何より先が見えないのが不安である。日本と同じ地震国イタリアで、そんな塔が立ち続けていること自体が奇跡。
 生きる勇気をありがとう。


(c)Mugihiko Taguchi

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