石田波郷の100句を読む
                
          (2) 2013/06/10




        石田郷子



  秋の暮業火となりて(きび)は燃ゆ  波郷

 昭和六年作。
 昭和七年、十九歳の時、波郷の投じた五句が「馬酔木」二月号の「新樹集」巻頭になった。この句はその中の一句で、他の四句は、
  秬焚や青き(いなご)を火に見たり   
  蓼紅きほとりに置けり稲車
  橿鳥(かしどり)とわかるゝ旅の林かな
  蝙蝠に低くてさびし花圃の門
 〈郷里松山在で、故五十﨑古郷の指導を受けてゐた。自家の畑での体験。〉(『波郷句自解』)と波郷は記している。
 「秬」の表記はあまり見かけないが、五穀の「黍」であろう。「業火」という一言に自然の営みの中で人間の宿命に思いを馳せた感じがあり、のちに「人間探求派」と呼ばれた、波郷らしい一句の重みがある。と、同時にどこか恍惚と「業火」に見とれているイメージもあるのではと、今になって気づく。
 脱穀のあと畑で燃やす穀物の茎や葉。はじめはくすぶっていても、一度勢いがつくと、怖ろしいほどに音を立てて炎を上げる。その高さは作者の背を凌いだだろう。やがて、釣瓶落としの夕闇がすべてを覆う。
 この初巻頭を機に、師・五十﨑古郷は秋桜子に手紙を書き、十九歳になったばかりの波郷を東京へ送り出したのである。





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