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(11) 2013/08/19 ![]() |
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萬緑を顧みるべし山毛欅峠 波郷 |
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昭和十八年作。五月、職場のハイキングで奥武蔵を歩いた折の句。〈峠の展望に魂を奪はれ、即刻にこの句を為した。作者は三月から月俸九十円の一書記であつた〉と自解にあり、奥武蔵グリーンラインに 「鶴」四月号で、波郷はいわゆる「風切宣言」を掲げた。 当時の俳壇の〈一、俳句表現の散文的傾向。一、平板疎懶甘美なる句境。一、俳句の絶対的価値軽視〉の傾向を矯正し、〈一、俳句の韻文精神真徹底。一、豊穣なる自然と剛直なる生活表現。一、時局社会が俳句に要求するものを高々と表出すること〉を目指すというものである。同時に古典研究のグループを中心に風切会を結成した。 古典回帰とも言える行動は、散文化の傾向の著しかった当時の俳句に俳句固有の韻文性を取り戻す意味でもあるが、時局に鑑みての配慮もあっただろうか。いや、波郷は脇目もふらず俳句に全力を注いでいたのだ。 この句の調べの高さに、私は何度でも立ち戻って、俳句とは何かと問い直したいと思う。 山毛欅峠を歩いた五月は、長男修大さんが誕生した月でもあった。 |
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(c)kyouko ishida |
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