石田波郷の100句を読む


             2013/09/10


《13》

            石田郷子





  栗食むや若く哀しき背を曲げて   波郷

 昭和二十年作。
 〈終戦後の不安、混乱の中に、尚田舎にとゞまつてゐた。この哀しい姿は作者だけのものではなかつた。〉と自解に書いている。
 私はこの句をどうしても読み切れず、鑑賞を書くのが難しい。戦後の疎開先で、細々と生きてゆく人々。

  水藷といへども笑ひ棄てざりき
  煮るものゝ(わずか)ながらや暮の秋
  風の日や風吹きすさぶ秋刀魚の値

 自らは戦地で病を得、肉親を空襲で失った妻と、幼子を養うことも難しい。
 三十代。長身の波郷が背を曲げて、栗を食べる姿はただただせつない。それでも、ここには自然の恵みである栗があり、家族もある。
 このあと、波郷はいちめんの焦土である東京の季節を諷詠する。その瑞々しく、豊かな作品群に、目を瞠ってしまう。
 それが、苦々しい思いや、恨みに繋がらないということを、今を生きる私たちへの、「戦後」という過去からのメッセージの一つとして受け取ってもいいのではないか。ふっと、そんな思いにとらわれる。
 




(c)kyouko ishida


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