石田波郷の100句を読む


             2013/10/02


《15》

            石田郷子





  はこべらや焦土のいろの雀ども   波郷

 昭和二十一年作。
 二十一年の初冬には、『病鴈』を上梓しており、出征から、発病して内地に送還されるまでの作品が収められている。二年足らずの間に成した作品群だ。
 この句は、昭和二十三年の春に刊行された句集『雨覆』に収められたもの。敗戦後の東京・砂町での生活諷詠の句が印象的な『雨覆』は、冬から始まる四季別の編集で、ほぼ二年分の作品。
 「はこべら」は、はこべのことである。焦土に萌え出てきた逞しい雑草たちを雀が啄む。声もたてずに啄む雀たちの羽の色は保護色のようで、一瞬、地面が蠢いているかのように見えただろう。雀たちもまた逞しく、頼もしい存在だ。
 昭和三十四年、砂町の波郷達家族が暮らした家の隣にあった妙久寺の境内に、この句の句碑が建立された。そちらの表記では「繁縷や」と漢字になっている。この漢字がちょっと意外で、はこべらという表記のやわらかい叙情的なイメージと異なるのも面白い。





(c)kyouko ishida


前へ 次へ   今週の1句   HOME