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2013/10/08 《16》 ![]() |
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昭和二十一年作。家族で住むことのできる家で、身を寄せ合って眠る。その耳に蛙たちの大合唱が聞こえてくる。いちめんの焼け跡を思えば、この蛙たちは田んぼで鳴くのではなくて、そこここにある沼や池などで鳴いていたのだろう。どこにこんなに潜んでいたのかというほど、無数の蛙たちの声。聞いているとけだるくなってくるような感じ。春愁とも重なってくるに違いない。 〈春闌けた焼跡に、こゝ江東は水漬く低処に蛙が棲みついてその声は夜々げろげろと天に響いた。人は生きの身を相擁いて眠るのであった〉と自解がある。 「擁く」のは、もろともに生きる家族でもあり、我が身でもあろうか。 同時に、蛙たちでもあるかもしれない。春から夏にかけて、蛙たちの恋のシーズン。それは、生きてゆく力の、すさまじいほどのたくましさの象徴でもある。 この春には、長女の温子が生まれ、「鶴」も復刊した。また、波郷編集の総合誌「現代俳句」が創刊された。 復刊された「鶴」の表紙の裏には、「俳句は生活の裡に満目季節をのぞみ、蕭蕭又朗々たる打座即刻のうた也」とあった。 |
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(c)kyouko ishida |
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