2013/10/31 《19》 |
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西日中電車のどこか摑みて居り 波郷 |
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昭和22年作。私は中学校の授業でこの句を知った。ラッシュアワーの車内、吊革に摑まれれば幸運な方で、ブレーキがかかる度に倒れそうになる。当時はそんな情景を思い描いたが、この句の背景には合わない。この年の夏、京都の石橋秀野を見舞ったり、「鶴」や「馬酔木」の俳人達に会ったり、現代俳句協会の設立に関わったりして、活発に行動した波郷だったが、八月末に中村草田男を訪ねた日から、体調を崩してしまう。秀野の死、横光利一の死にも遭い、心も重かっただろう。 「電車のどこか摑みてをり」は、ようやく立っているような作者の疲労を感じさせる。西日を受けた電車の暑さも相当なものだったろう。ただ、この疲労感は、病人であるという背景を知らなくても充分にわかるものであり、共感を呼ぶ句だと思う。西日に赤々と照らされた人々の顔には、しかし、郷愁のようなものがあり、帰途につく安らぎもあるのではないか。 夏河を電車はためき越ゆるなり は、同じ頃の作。 |
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(c)kyouko ishida |
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