石田波郷の100句を読む 《27》 2014/01/21




石田郷子





  雪はしづかにゆたかにはやし屍室   波郷

 同年作。「雪」と題された五句の中の一句。下五を「かばねしつ」と読むのか、「かばねべや」と読むのか未だに不明なのにもかかわらず、『惜命』の中の愛唱句である。筆者にとってはこの句との出会いが俳句を作り続けるきっかけになった。
 「しづかにゆたかにはやし」とは、類いまれな描写だ。主観と客観の両方で捉えた本物の写生だ、と感じ入ったからだ。「はやし」での切れにこもる詠嘆は、森羅万象を讃え、畏れる心、そして死者への哀悼と輪廻転生にまつわる諦観である。不思議なことに、「屍室」の下五があってはじめて雪の降る情景がありありと見えてくる。

  力なく降る雪なればなぐさまず

も「雪」五句の中の一句である。






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