石田波郷の100句を読む《28》 2014/02/04




石田郷子





  七夕竹惜命の文字隠れなし   波郷

 昭和24年作。この「惜命」が句集名になった。
 星に願い事をする行事とあれば、七夕の竹には、早くなおって家族の元に帰りたいという患者達の願いが、犇めくように掛けられていただろうか。俳句や短歌をしたためた短冊が多かったかもしれない。
 どの文言からも「惜命」の念は感じられただろう。その切実さが、「隠れなし」という下五のいい切り方にあるのだと思う。それは作者自身の思いでもあるのだから、「隠れなし」は実感である。
 旧暦の七夕は、今の八月で、お盆の頃に近い。今も月遅れなどで行う地域はあるが、新暦の七月七日だと梅雨の最中でもあるし、これから夏が盛んになるという時期で、季語本来の初秋の感じは味わえない。時代を経ても、この句は秋の句として鑑賞されなくてはならない。



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