石田波郷の100句を読む《29》 2014/02/11




石田郷子





  一樹なき小学校に吾子を入れぬ   波郷

 昭和25年作。三年に跨がる療養生活の末、結核は治らないまま、波郷は清瀬の療養所を退院した。長男・修大が小学校に上がるのを、せめて自宅から見送ってやりたいという一心からだった。
 病床の窓からは、隣接する寺の墓地が見え、その向こうにも殺伐たる風景が広がっているだけだったので、義父が椿や梅、木犀などさまざまな木を植えたという。
 砂町はまだ焼け跡で、修大さんの入学したのは、一本の木もないような殺風景な小学校。いや、実際には一本くらいはあったようだが、教室も足りず電車の車両が教室代わりに校庭に置かれていたという。大勢の子どもたちが二部制で通い、さぞかし賑やかだったろう。
 殺風景ながらも、そこには限りない未来が広がっていた。
「入れぬ」の「ぬ」は完了を表す助動詞。



(c)kyouko ishida

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