らくだ日記       佐怒賀正美
【作品27】
2009/03/11 (第461回)

 この上五は「春はあけぼの」の「は」とは異なり、断定の「春は闇である」の意。もちろん、「春の闇」という季語でもない。実際、八束は日米俳句大会の実行委員長として孤軍奮闘しているうちに帯状疱疹にかかってしまい、頭にも出たものだから、その痛みに尋常ではない辛さを抱えねばならなくなった。
  ところで、「春は闇」という断定は、単純な語ながら案外誰も言わなかったのではないか。こんなところにも表現の可能性が転がっていようとは。一方、「ヘルペス地獄に堕ち」とは俳句ならではの誇張法だが、患った本人にとってはまさに地獄なのかもしれない。少々コミカルな味わいもあるが、演出気味に自分を突き放す仕方は、八束の初期の代表作〈血を喀いて眼玉の乾く油照り〉を思い出させる。しかしながら、「春は闇」句の方が中七以降の流れが速く、否応なしに読者の中へ入り込んでしまいそうだ。




     
 














     
   
   
   
   
     
『春風琴』平成9年作 
(C)2007 Masami Sanuka
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