らくだ日記       佐怒賀正美
【作品28】
2009/03/12 (第462回)

 「桃の花」の抒情と「笛吹川」という固有名詞の持つ意味性を最大に効かせて、懐かしさに溢れた絵画的な作。「桃の花」と「川青し」の色彩の対照も甲斐の国の中で効果的に働いている。もちろん甲斐は八束の生まれ故郷だが、「ふるさと」「こきょう」「ぼきょう」などというありふれた語を避けて「故園」という語を選んだところに、八束の語感の良さと厳しさを見る。この一語により、甘すぎるくらいの「桃の花」と「笛吹川青し」とがしっかりとつなぎ止められた。父の舟月もそうだったが、八束も故郷を離れ、東京に住んで奮闘した。その最晩年に現れた故郷への思いは、「桃源郷」の語の如く甘美であたたかい。





     
 











     
   
   
   
   
     
『春風琴』平成9年作 
(C)2007 Masami Sanuka
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