らくだ日記       佐怒賀正美
【作品31】
2009/03/17 (第465回)

 〈濡れ身もてみどりの蟬の生れそむ〉も同時作だが、「濡れ身」の方はすこしエロチックなしなやかさを感じる。それだけに少し作為的にも感じられる。それにしても、このやわらかなイメージはなかなか捨てがたい。それに対して、上掲の句は、あと少しモノに徹して写しているが、それでも非常に幻想的な情景だ。地上に出現して目を開いたときに、地靄に囲まれるとはどのような心境だろうか。地靄に暁の色合いが溶け込んで、太古の原初的な雰囲気も濃厚だ。私ももう一度生まれることがあるならば、このような出現の仕方をしてみたいものだ。句は、中七の中で二つに切れている。蟬穴という極小のものが前半のフレーズならば、後半は「暁に地靄が立つ」水平的にも奥行きと広がりのある広大さを感じさせる。そのコントラストが句をダイナミックに仕立てている。

     
 










     
   
   
   
   
     
『春風琴』平成9年作 
(C)2007 Masami Sanuka
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