らくだ日記       佐怒賀正美
【作品34】
2009/03/23 (第468回)

 こちらは、昨日の分類で言うと第二のグループの作。「俳句朝日」1月号の七句の第一句である。「酔春星」と題しただけあって、蕪村の足跡をたどった生前最後の取材に基づく作には力がこもっている。七句を引いてみよう。

  舟に乗り帰る子のあり礒千鳥
  竹林の鳴り大江山颪(おろ)す北風(きた)
  水戸の蕪村展にて 二句
  雪中花蕪村の夜色楼台図
  蘇鉄図の虚空の澄みや酔春星
  溝そばの紫ほめく与謝の加悦(かや)
  与謝荒るる波に逆落つ鷹一つ
  雪くるか松籟吼える与謝疾風(はやて)

 全体に八束本来の表現意欲が見えてくる。その中の第一句だが、非常にやさしく懐かしい風景だ隣の島へでも渡る小舟に乗って帰る子どもを見かけたのだろうが、礒千鳥がいっぱいに波に漂っているような風景だろうか。実際の風景かもしれないし、八束の胸の中に棲み続けた風景かもしれない。この句を見ると、歳晩年の句だからという意識が働くためかも知れないが、八束が無垢な童子に戻って、向うの世界へ帰ってゆくような風景に見えて仕方がない。やさしくやわらかい叙情的な風景。近代的装いを追求してきた八束が、最後に日本の抒情に立ち戻って帰ってゆく。そんな「なつかしい日本」に心の底では憧れ続けていたのかもしれない。のこりの諸作については、また次週に。
     
 












     
   
   
   
   
     
『春風琴』平成9年作 
(C)2007 Masami Sanuka
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