page5



 やがて、何とか六合目まで下山してきました。
 六合目には馬がいて、五合目まで運んでくれます。もちろん、有料ですが。
 山案内人が交渉して、男性を五合目まで馬で下ろしてもらうことになりました。山案内人も、添乗員も、男性たちも、さすがに体力の限界にきていたからです。


〔五合目付近からの富士山〕

 五合目には「はとバス」が迎えに来ていました。
 山小屋では着たまま寝袋でのザコ寝でしたので、はとバスで近くの温泉へ。
 この温泉は大浴場から富士山が一望できる所にあり、湯につかって手足を伸ばしながら富士山を眺めていると、ゆっくりと達成感が湧いてきました。
 途中でリタイアした5人も、この温泉で合流。すっかり元気になっていました。
 この温泉でしばし休憩してから、全員で帰路につきました。
 帰りの車中、担がれた男性が、心から感謝の言葉をのべられました。苦労を分かちあった男性たちはもちろん、全員に和やかな連帯感が生まれていました。
 新宿でバスを降りる時も「またご一緒したいですね」「どこかでお会いした時はよろしく」などと、名残惜しそうに挨拶をして別れました。

 1カ月ほど経った頃、「皆様に感謝の気持ちをこめて作りました」との一筆が添えられた小さな花瓶が届きました。あの、70歳過ぎの男性からでした。陶芸が趣味とのことで、富士山の色を写したような青と白のすっきりとした花瓶でした。


 以上が私の、個人的な富士登山の思い出です。
 あまりにも長くなりそうでしたので省きましたが、印象的な植物もたくさんありました。
 「蛍袋」――富士には蛍袋が似合います。野生の蛍袋があちこちに見られ、目を楽しませてくれます。
 「御蓼(おんたで)」――高山帯に自生する蓼で、植物がまばらになる八合目あたりまで生えています。
 「さるおがせ」――五合目に多く見られました。手で触れると、思いのほか硬く、しっかりとしていました。
 他にもさまざまな植物が目を楽しませてくれます。
 五合目から植物相が徐々に変化するのも楽しめます。
 九合目から上は、もはや岩のみで、一木一草も見あたりませんでした。
 
  
〔蛍袋(左)と御蓼(右)〕

 五合目までは観光バスが着きます。
 ぜひ一度富士山の風を肌に感じてみてください。

星野、記


前へ≪ [1] [2] [3] [4] [5]

HOME